似たもの同士

 ……見られている。絡み付く視線が鬱陶しく、まるで蛇の様だ。
 この学園にいるということは、忍たまの誰かなのだろう。
 更に言うならば私にはこの視線の持ち主が誰かということも粗方検討が付いていた。授業の最中に私をずっと見ていた生徒に違いない。
「出てきなさい」
 そう言うと相手は逃げることもなく、私の言葉に従った。
 一瞬、不破雷蔵かとも思ってしまうが、変装した鉢屋三郎である。雷蔵は私の後をこそこそと付いては来ないからだ。
「バレていました?」
「当たり前です。貴方が気配を隠す気がないのですから」
 そう指摘すれば、三郎は雷蔵の顔で苦笑いをする。
「気になる事があったので……、先生、何枚か被っていますよね?」
 その言葉を聞いた瞬間私はこの目の前にいる遥か年の離れた子を値踏みするように見てしまう。
 生徒の前では優しく時に厳しい理想の教師を演じていることに対してか、姿の事を言っているのか、三郎はどちらのことを言っているのだろうか。両方なのだろうか。だとしたら、忍術学園とは恐ろしい。私の事を見透かす生徒がいるのは今も昔も変わらない。優秀な忍者の卵が多すぎる。だからこの年までこの学園に居れるのだが、実質、三郎とはまだ会って二回しか経っていない。
 わざわざこうして二人になれる機会を伺うために気配を残し後をつけてきたのか。
 そして、私についての違和感を、まるで見透かしたのかの様に言ってくる様は褒められることを望んだ子供の姿の様だ。
 雷蔵の真似をしているが、三郎の方が僅かばかり精神年齢が下であろうことが分析できた。
「それを言いに来たのか?」
 面倒だと、それを隠すことなく表にだし、言葉として発してしまう。
「素の先生の声を初めて聞いた」
 三郎はまるで独り言の様に呟いた。いや、本当に独り言だったのかもしれない。
「お前に先生と言われたくない」
 不安げな表情を浮かべる三郎に、こう付け足した。
「同じ皮を被っているんだ、私達の関係も被ろうではないか。皆の前ではお前の教師でいよう。聰明で、で、で…な教師でいよう。だが二人ならば私はお前に何も与えはせん。何故なら私の本質は で で なのだから。見抜いたお前には教師としての私は無意味だろう?」
 皮を被り、偽った私と、皮を被り、 した三郎。
 似ているな私達はと呟けば、似たくないと返される。
「私はいい教師であっただろう?何、表向きは変わらんさ。そんな妙な顔をするな」
「貴方を真似しようと思ったのに、貴方事態が本物ではないのですね」
「二度目ましてにしては上出来だ。やはり、お前には才があるよ」
 そう言われて照れたのか頬をかく三郎。
「そうだな……同じ仲間だ。時には茶菓子でもこさえて話そうか。珍しく私は嬉しい気分だよ。この感情の高ぶりは久しく味わっていない。そうか、お前には私が見えるのだな。お前には一部であろうとも私の質が見えるのだな」
「何だ? 厄介な相手に会ってしまったと顔にでてるぞ。お前は見抜くのは得意だし、姿を真似るのも得てして居る様だが、お前の質が出てしまうな」
 にやりと笑うと、三郎はもはや曖昧な表情を浮かべるばかりである。



(あぁ、からかってやったぞ)

 お前ばかりが道化ではないのだ。